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『木のお医者さん』最終回 [GBA2005ノベル]

  【六】
 老木の変化は次第に、目に見えてきました。樹皮はうるおいを取り戻して、枝は天を向いて伸び、葉は深い緑に染まっていきました。鳥が何処からともなく、枝へ舞い降りて、老木の回復を祝うようにさえずっています。地面に落ちていた白衣が、風に飛ばされて老木の枝にひっかかり、鳥がそれを啄みました。
 一部始終、目を反らすことなく見ていた子どもは、母親の指を握りながら、白衣を啄む鳥たちを眺めていました。
 「おかあさん。あのおじさんは、木になったんだね。」
 母親は子どもの手を引いて、人だかりから姿を消しました。
 風に吹かれて揺れる葉の音と、鳥たちのさえずりとが、にわかに重なり合い、老木の近くを通り過ぎる人たちの心に響きわたりました。

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『木のお医者さん』その6 [GBA2005ノベル]

  【五】
 木よ。老木よ。どうか、心を開いておくれ。そして、木々が枯れた理由を教えておくれ。枯れた木の治療方法を教えておくれ。さあ、木よ。老木よ。どうか、心を開いておくれ……。
 お医者さんの頭に、低く重苦しい声が聞こえてきました。その声は、周りを囲んでいる人たちの頭の中にも、響きわたりました。

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『木のお医者さん』その5 [GBA2005ノベル]

  【四】
 翌日。お医者さんは古池に案内されて、たった一本だけ残された老木の前に立ちました。
 老木は枯れてかかっていました。樹皮は乾きのために、所々めくれていましたし、五十人の大人が、ぐるりと囲んでも囲めきれない程に太かった幹も、今では、二三十人くらいで、ぐるりと囲めてしまう程に痩せ細っていました。枝には小さく縮んでしまって、緑に薄い灰色を混ぜたような色になってしまった葉が、申し訳なさそうに、風に吹かれながら、ぶらさがっていました。

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『木のお医者さん』その4 [GBA2005ノベル]

  【三】
 山と川とに囲まれた地に、真っ黒のエアカーが停まりました。スモークの貼られた窓が、小さな音を出しながら下へ降りました。古池は開いた窓から、小高い丘の方を見上げました。
 丘の上には、小さい病院が見えます。木造の一階建てで、屋根の上に降り積もった雪を下へ落とすために、屋根は斜めになっています。斜めの屋根をもつ病院は、自然の背景に打ち解けているように見えました。二十世紀ころから、屋根を緩いV字型の傾斜にして、その谷間にパイプを通し熱湯を流すことにより、屋根に降り積もった雪を溶かして排水溝へ流すようになりましたが、斜めの屋根と見比べると、どこか不自然でした。

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『木のお医者さん』その3 [GBA2005ノベル]

  【二】
 日本政府は臨時国会を開き、この現状をどうしたものかと悩んでいました。意見は対立しました。
 「また、植木を始めるべきです。みなさんもニュースなどをご覧になって、知っておられるでしょう。木があれば防げたはずの災害で、どれだけ多くの国民が命を落としたか……。」
 「予算はどこから出すのだ? これ以上、増税することはできんよ。国民も黙ってはいないだろう。」
 「日本を捨てて他の国へ移住する、という選択肢もある。南国の女性はとても魅惑的だそうだし。」
 「やはり、あの予言は当たってしまったのか……。」

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『木のお医者さん』その2 [GBA2005ノベル]

  【一】
 ──空に拡がる光化学スモッグ。空高くそびえ立つビル群。空中に浮かぶ巨大スクリーンに映し出される広告。道を行き交う人の波。
 空中に浮かんでいる巨大なスクリーンに、「国民のみなさん。人に優しく、自然に優しいエアカーに乗って、ドライブを楽しみましょう」と大きな文字が映し出されています。文字が消えて、臨海副都心をエアカーでドライブしている若い男女が映し出され、不自然な笑顔で道行く人々に手を振っています。
 エアカーとは、空気を吐き出しながら走る自動車のことです。日本中の自動車メーカーが共同開発したもので、二四〇〇年ころから市場に出回るようになったものです。

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『木のお医者さん』その1 [GBA2005ノベル]

  【序】
 ここは西暦二四五五年の日本です。
 ジーザス・クライストが人間として生まれ落ちてから、二四五五年も経っていましたので、その教えは大きく歪められてしまい、権力者たちの都合の良いように変形、引用されていました。
 唯物論を声高に主張する学者が肩で風をきり、我が物顔で道を歩いているのも、ここ──日本だけでした。唯心論者が肩身の狭い思いをするのも、二一〇〇年代まで停滞していた科学が、二三〇〇年代に入ってから、今までの停滞を笑い飛ばすように、著しく進歩してきたからなのです。
 どれだけ科学が進歩してきたのか、街を一目見ただけで分かるでしょう。

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